【研究テーマ】
安心・安全なロボットにつながるコア技術
【研究者】
長谷川 達生(東京大学大学院工学研究科教授):研究全体の統括
野村 博(東京医療センター 臨床研究センター 特別研究員):脳型モジュール開発の総括
井川 光弘(東京大学大学院工学研究科特任研究員):皮膚型センサ・人工筋肉デバイス開発の総括
亀田 弘之(東京工科大学 コンピュータサイエンス学部 教授):脳型モジュールの開発
松井 弘之(山形大学 有機材料システム研究科 准教授):皮膚型センサの開発
大槻 哲也(MKTタイセー 電子機器営業部 部長):人工筋肉デバイスの開発
中田 剛(ティーエムソル株式会社 CEO):製品化・知財戦略の立案
【概要】
本提案は、安心・安全に人と接触することを大前提とした複雑な動作が求められるロボット開発を対象とする。これまで産業用途を中心に、予め決められた動作を自動化・効率化するロボット技術が発展してきたが、これらは予測困難な状況には対応ができない。このため、現状では可動域への人の立ち入りは禁止される。また、人との共同作業を想定した簡易な協働ロボットであっても、緊急停止や動作速度を遅らせる等の安全対策が必須となっている。人と密に接する分野では、会話に特化したコンシェルジュ・ロボットや、癒しを目的とした愛玩ロボットなど、安全への配慮を必要としない用途に限り製品化が進んでいるが、医療・介護用途等への本格的な応用はまだまだ先のことと言わざるを得ない。その理由の一つは、教師学習などの現行の人工知能を用いたサイバネティクス(ロボット技術)では、想定される状況を細かく別け、それぞれに対する最適解を可能な限り多く用意することが安全への唯一のアプローチであるが、無限に存在する状況をすべて網羅することは現実的に不可能だからである。安心・安全なロボット技術へのブレイクスルーが強く求められている。
本提案では、危険や不具合を避ける判断を自律的に学習する小脳の機能(回避学習)を搭載した「脳型モジュール」に、柔らかな樹脂からなる曲面上に感圧センサを高密度に配置した「皮膚型センサ」と、安全性の高いバックドライバビリティを擁する「人工筋肉デバイス」を融合した新たなロボットコア技術を確立し、これらにもとづく製品化技術を開発する。本提案による安心・安全ロボットへのブレイクスルーは、産業界だけでなく、社会全体に対し多大なインパクトを与えると期待される。
本提案の第1のコア技術は、主たる共同研究開発者(野村)が脳の仕組みを解明する中から見出した、回避学習を行う機能を備えた「脳型モジュール」である。衝突する・転倒する・ぶつかるなど、具体的な事態を定義するだけで、これら危険な事態を避ける判断を自律的に学ぶ。したがって、開発後にかかる作業コストを低く抑えることが可能である。ただし、上記回避学習で安全な動作を実現するには、危険を素早く検知することが必須の条件となる。周辺監視には光学カメラが広く活用されえいるが、現実には死角が残る課題があり、曲面が多いロボットの全身に感圧型センサ類を高密度に配置する技術が必要である。そこで本提案の第2のコア技術となるのが、研究代表者・共同研究開発者(井川)が開発した、曲面形状を有する柔らかい樹脂上へのデバイス製造技術による「皮膚型センサ」である。これにより、皮膚の触覚に近いセンシング機能を付与することが可能になる。さらにロボットの動力源として、一般的なサーボモーターではなく、骨格を引っ張って関節部を動かす「人工筋肉デバイス」を開発する。これらの駆動機構は、衝撃を和らげるバックドライバビリティを担保し易く、安全・安心なロボット技術を実現する上で特に有望な要素技術と言える。「皮膚型センサ」、「人工筋肉デバイス」を「脳型モジュール」による回避学習と連動させる。